写真でもビデオでも、構図を考えるにあたって重要なのは、被写体そのものよりも「何もない空間」である。
何もない空間を、画のどこにどれだけ入れるのかによって、広がりや雰囲気が表現出来る。
空間を意図的に入れて想像させる例
まずはこの写真。兵士が一人、中央に写っているだけである。

写真1:ただの兵士
この写真は、「何も無い空間」の部分に、ほとんど意図が無い。

写真1解説
解説を入れると、兵士の左右にある空間が等間隔である。
空間に特徴がないので、被写体自身が語る「兵士が一人」というメッセージ以上のものを感じない。
これはただ被写体を写しただけである。
次に空間を使う例を挙げる。
同じ被写体でも、「何もない空間」に意図を持たせるために右側を極端に多くする。

写真2:左側の空間が多い写真
この写真は、兵士の右側に何もない空間があることにより、兵士の視線を想像して、イメージが増えるのではないだろうか。

写真2解説
ただの置物だった兵士の写真が、右側に向かって動いていくように想像できないだろうか。
「走っていく最中であろう」という状況や右側に何も無いことで、空間の広がりを想像させる。
お次はこちら。
逆に左側に空間を多く持たせる。

写真3:左側に空間
左側に空間があることで、左から来た兵士が自分の目の前を横切り、過ぎ去っていったように想像できないだろうか。

写真3解説
空間を左に入れることにより、写真を見ている自分がこの兵士に置いて行かれたような状況、もしくは左側の画面外に敵がいて、兵士が立ち向かっていったように思いこむ。
これは面白い。左側に何もない空間を作ったのに、逆に右側に無限の見えない空間を想像させるのである。
この現象は、被写体自体に顔や目線を示す概念があり、それと逆に空間を入れるときに起きる。
今回の被写体で言うと、「兵士」という人間の形をした被写体であり、右側に視線を向けて進んでいるという概念を感じるものなので、右側には「進行方向」という特別な意味がある。
これを意識して、反対の左側に空間をもたせても、進行方向という特性を持つ右側には空間を感じさせる。
被写体の向き、目線によって、右と左の空間が持つ意味が変わるのである。
コンサートの撮影やポートレート、インタビューなどで非常に重要なこと。
被写体の向きと空間の位置関係。
さらに続いては、画面にもっと動きを出す。
空間において水平線を斜めにしてみた。

写真4:斜め

写真4解説
意図的に水平線が斜めになるように撮ったが、これによって被写体の兵士自体よりも、まずは右上を見てから左下の兵士に視線が移ったのではないだろうか。
この視線の動きにより、右上から左下へ何かが降ってくるようなことを想像する。
今までは右側に地上の敵がいるような気がしたが、斜めにすることで上(空)への意識が出てきて、戦闘機などの空と戦っているように見えるようになった。
何もないのに、空間によって見る人の視線をコントロールして、そこに何かを想像させる。
面白い。
お次は、斜めを逆にしてみた。

写真5:見上げる斜め

写真5解説
写真4よりも被写体を見下ろしている感が強く、まずは兵士を見てから、視線を想像して左側を意識する視線の動きになる。
より強く、躍動感と左への移動を感じるのである。
適切な空間の入れ方
では、写真やビデオを撮るときにどうすれば意図的に空間が入れられるか。
それは、何を表現したいのかのメッセージを決め、そのメッセージを感じる状況を想像するのである。
「寂しい」「動きが激しい」「旅立った」など、感じて欲しいメッセージ、状況をまずは決める。
例えば、「寂しい」を伝えるとしよう。
どうすれば兵士が寂しいと思う状況になるだろうか。
『仲間の兵士がいたのに、戦死してしまい、自分一人で戦わねばならない』
この状況は寂しいはずである。
このメッセージを写真の構図にしてみよう。
まずは「仲間の兵士がいる」構図を作る。

2人の仲間と戦う兵士。空間に意図がない。
空間には、写真1と同様に意図がなく、メッセージは「3人の兵士が戦っている」だけだ。わーいわーい。
で、その状態から「仲間が戦死」する。ひょえー!

いなくなっちゃった…
仲間がいたはずのところに「何も無い空間」ができ、仲間がいなくなったことで「寂しい」一人の兵士になった。寂しい。
このように、「伝えたいメッセージを感じる状況」を想像して、構図の中で作り上げていく。
画面から切ることで、「無いもの」を想像させる
次に、無いものを表現する。
『兵士の人形は3つしかないけれど、大勢で戦っている状況』
を作る。
無いものを想像させるには、逆に「在るものを切る(捨てる)」のである。
これ。

3人を撮った写真
3人がしっかり映っていて、左右に空間があるので、「3人いる」と思う。それ以上もそれ以下も無い。
で、一人を少し画面から切る。

左側の兵士を切る
どうだろう。もっと大勢いるように想像してしまわないだろうか。
「在る」兵士を画面から切ることによって、もっと大勢の兵士という無いものを想像させる。
これも面白い現象だと思う。
では次に、逆側を切ってみよう。
これはどんな状況が浮かんだだろうか。
右側がなくなったことによって、右側に、とてつも無い敵の大群がいそうでは無いだろうか。

大群に向かう兵士
左側を切ると、兵士側に注目して、右側を切ると、いないはずの敵を想像する。
空間の切り方、入れ方で注目することろが変わってくるのである。
被写体よりも空間にメッセージ性を
写真やビデオは、中心となる被写体だけが重要では無い。
むしろ、被写体は置いといて、何も無い空間にこそ重点を置き、何を感じて欲しいのかを表現するのである。
良い被写体を見つけたら、何パターンも空間の入れ方を変えてみるといい。
右側に入れる、左側に入れる。
入れる量を変えてみる。
構えを斜めにしてみる。
敢えて被写体を切ってみる。
「何も無い空間」が変わることで、同じ被写体でも、その画にはどんな変化が生まれるだろうか?
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映像作家コジロウ
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